チンパンジーなどの類人猿は、ときどき物を投げますが、ヒトほど速く、正確に投げることはできません。私たちヒトだけが速く、正確に投げることができるのです(Westergaard GC, 2000)。
しかし、野球選手でない私たちに「投げる能力」というのは一見、無縁のような気がします。では、なぜヒトは投げる能力を獲得したのでしょうか?
そこには進化的な理由があるのです。
今回は、ハーバード大学の進化生物学者であるRoachらの知見をもとに、投げる能力の進化について考察していきましょう。
◆ ヒトは狩猟のために投げる能力を進化させた
ダーウィンは、二足歩行の獲得が上肢の動きを開放し、ヒト独自の投げる能力を進化させたと言います(Darwin C, 1871)。
約400万年前、ヒトは二足歩行を獲得し、約200万年前の旧石器時代から狩猟活動を活発に行うようになりました。
肉食動物に比べて、ヒトは足も遅く、力も弱く、爪や牙などの身体的な武器もありません。
しかしヒトには、武器を作る知能がありました。そこで削った石や木片を武器にして、狩猟活動を行っていました。
そして、その武器を活用するために進化したのが「投げる能力」だったのです。
約190万年前になると、ヒトは大型の肉食動物を捕食するようになります。
投げる速度や正確性を高めることで、大型動物の狩猟を行なえるまでに投げる能力を進化させたのです。その後も農耕が始まる約1万年前まで、ヒトは投げる能力を活用して狩猟活動を行なってきました。
Fig.1:木片を投げるケニアのダサナック族(Roach NT, 2015)
ここで、ヒトが投げることで狩猟を行なってきた期間を時間軸で見てみましょう。
Fig.2:狩猟・農耕活動の時間軸
このように見ると、ほとんどの期間を投げることによる狩猟活動によって生活していたことがわかります。長い狩猟活動の期間、ヒトは生き延びるために、正確に、速く、強く投げる能力を進化させてきたのです。
知識社会である現代では、知的能力の高いものが金銭的利益を得ます。
同じように、石器時代では、投げる能力の高いものが狩猟活動の主役になっていました。
投げる能力は進化の自然選択によって、優位に遺伝的に引き継がれていったのです(投げる能力の高いものが繁殖にも有利だった)。
では、この「投げる能力」を生み出す肩はどのように進化してきたのでしょうか?
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